この記事でわかること
- 表面利回りと実質利回り:何で割り、何を引くか
- 「想定」と「現況」:満室で計算しているか、今の入居で計算しているか
- 家賃から引く費用:7つの項目
一棟アパートの広告で最初に目に入るのは、たいてい「利回り◯%」の数字です。この数字は、年間の家賃を価格で割っただけのもので、管理や修繕、税金、空室の分はまだ引かれていません。
どこを引けば手元に残る割合に近づくのかは、架空の計算例で順に引いていくと見えてきます。数字は2026年10月26日時点の制度に沿っています。
表面利回りと実質利回り:何で割り、何を引くか

不動産の広告のルール(不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則)では、広告で使う「利回り」の意味が決まっています。1年間の予定賃料収入を、物件の取得対価で割った割合です。そのうえで、広告には次の3つを書くことになっています(施行規則第9条第46号)。
- 1年間の予定賃料収入の、取得対価に対する割合であること
- 予定賃料収入が確実に得られることを保証するものではないこと
- 公租公課(税金)や、物件を維持するために必要な費用を引く前の数字であること
つまり広告の「利回り」は、いわゆる表面利回りです。一方の実質利回り(ネット利回り)は規約の用語ではなく、計算のしかたも決まった定義はありません。よく使われる形は次のとおりです。
| 呼び方 | 計算 | 分かること |
|---|---|---|
| 表面利回り | 年間の賃料 ÷ 物件価格 | 広告どうしを同じ物差しで並べる |
| 実質利回り | (年間の賃料 − 年間の費用)÷(物件価格 + 購入時の諸費用) | 持ち続けたとき、手元に残る割合の目安 |
実質利回りの分母に諸費用を入れるかどうかは、人によって違います。比べるときは、同じ式で計算し直せば並べられます。
なお、借入れの返済や、所得にかかる税金は、どちらの式にも入っていません。手元に残るお金そのものは、これとは別に計算します。
広告のしかたは、法律でも縛られています。宅地建物取引業法第32条は、宅地建物取引業者が広告で、代金や借賃などの対価の額、支払い方法、ローンのあっせんなどについて、著しく事実と違う表示や、実際より著しく有利だと誤解させる表示をすることを禁じています。
「想定」と「現況」:満室で計算しているか、今の入居で計算しているか

規約の条文は「予定賃料収入」と書いているだけで、満室で計算するか、今入っている人の家賃で計算するかは、条文には書かれていません。 そのため広告では、次のように書き分けているものがあります。
- 想定利回り:全部の部屋が埋まった前提の家賃で計算した数字。空いている部屋の家賃は、売る側が見込んだ額です
- 現況利回り:今の入居者の家賃(レントロール=部屋ごとの家賃と契約の一覧)で計算した数字
架空の計算例(実在の物件・地区の相場ではありません) 8戸のアパート、価格6,000万円、1戸の家賃を月5万円とします。
| 年間の賃料 | 表面利回り | |
|---|---|---|
| 満室の想定 | 5万円 × 8戸 × 12か月 = 480万円 | 8.00% |
| 現況(6戸入居) | 5万円 × 6戸 × 12か月 = 360万円 | 6.00% |
同じ建物でも、どちらで計算するかで2ポイント違います。想定の数字なら、空いている部屋の家賃が今の入居者の家賃と比べて高すぎないかを、レントロールと並べて見ます。レントロールに契約の始まった日が載っていれば、入居が長い部屋と短い部屋の差も読めます。
家賃から引く費用:7つの項目

実質利回りに近づけるために引く、主な費用です。目安の率や金額は、一次資料で示せるものが見つかりませんでした。 下の金額は、計算のために置いた架空の数字です。
| 費用 | 中身 | 計算例の金額(年額) |
|---|---|---|
| 空室・滞納の見込み | 入れ替わりの間に空く期間、家賃の遅れ | 48万円 |
| 管理委託料 | 管理会社に払う、家賃の集金・入居者対応などの料金 | 24万円 |
| 修繕の積立 | 退去後の部屋の補修、設備の交換、外壁・屋根の工事に備える分 | 40万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年1月1日時点の所有者にかかる | 40万円 |
| 火災保険・地震保険 | 建物にかける保険 | 8万円 |
| 入居者募集の費用 | 仲介会社への報酬や広告の料金 | 10万円 |
| 共用部の電気・清掃など | 廊下の照明、植え込みの手入れなど | 12万円 |
| 合計 | 182万円 |
満室の想定480万円から182万円を引くと、残りは298万円。価格6,000万円で割ると4.97%です。表面の8.00%から3ポイントほど下がりました。
空室の見込みを置くときの手がかり:熊本の「賃貸用の空き家」の割合 熊本に絞った民間の空室率の指数は、公開されているものが見当たりません。国の住宅・土地統計調査(2023年10月時点)から、賃貸用の空き家が、人が住んでいる借家と合わせた数に占める割合を計算すると、次のとおりです。
| 地域 | 2023年 | 2018年 |
|---|---|---|
| 全国 | 18.6% | 18.6% |
| 熊本県 | 18.3% | 14.8% |
| 熊本市 | 18.3% | 15.4% |
| 菊陽町 | 10.4% | 5.2% |
| 合志市 | 13.0% | 9.6% |
| 大津町 | 13.9% | 9.7% |
(総務省統計局「住宅・土地統計調査」2023年・2018年を加工して作成。計算は 賃貸用の空き家 ÷〔借家(専用住宅)+賃貸用の空き家〕)
読むときに外せない点が3つあります。
- 募集中の空室の割合とは別の数字です。 この統計の空き家は調査員が外観などから判断したもので、公営住宅などの空きや、傷みのある住宅も含みます。熊本県の賃貸用の空き家のうち約14%は「腐朽・破損あり」でした
- 菊陽町・合志市・大津町の数字は、空き家の数の推定値に2割前後の標本誤差があります(2018年の菊陽町はそれより大きい)。目安として読み、小数点の差には意味を持たせないほうが安全です。町の割合が上がった理由も、この統計からは分かりません
- 2023年10月の数字です。 jasmの工場の操業や、令和8年熊本地震より前の状況です
どの市町が貸しやすいかを示す数字ではなく、町の割合が低くても、一棟ごとの空室が少ないとは限りません。
計算例の空室・滞納の見込み48万円は満室の家賃の10%にあたります。統計の割合をそのまま当てはめるのではなく、検討している建物のレントロールで、今空いている部屋と、過去の入れ替わりの間隔を見て置きます。
税と募集の費用は、決まり方が公表されています。
- 固定資産税・都市計画税:熊本市では、固定資産税が課税標準の1.4%、都市計画税が0.3%(市街化区域)です。住宅の敷地の固定資産税は、課税標準が、1戸あたり200㎡までの部分で価格の6分の1、それを超える部分(建物の床面積の10倍まで)で3分の1に下がります。各戸の床面積などの要件を満たす新築の住宅は、各戸の居住部分(120㎡まで)の固定資産税が、新築後3年度分(3階建以上の中高層耐火住宅などは5年度分)2分の1になります。新築のころの税額は、この減額が終わると上がります。
- 入居者募集の費用:仲介会社が部屋を貸す仲介で受け取れる報酬は、原則として、貸主と借主から合わせて家賃1か月分の1.1倍まで(国土交通省の告示)。これとは別に、依頼して行う広告の料金は受け取ってよいとされています。
管理会社に何を任せるか、海外に住んだまま持つ場合の家賃の源泉徴収と申告は、海外に住みながら熊本の家を持つ 買った後の管理・納税管理人・税金 の担当です。
買うときの諸費用も、利回りを下げる

購入のときに一度だけかかる費用も、実質利回りの分母に効きます。計算例の6,000万円(消費税抜きの代金とします)で、固定資産税の評価額を土地1,500万円・建物2,000万円と仮に置くと、次のようになります。
| 費用 | 決まり方 | 計算例 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 上限は代金(消費税を除く)のうち200万円以下の部分5.5%、200万〜400万円の部分4.4%、400万円超の部分3.3%(消費税込み。国土交通省の告示) | 上限で204.6万円 |
| 登録免許税 | 評価額 × 土地1.5%(2029年3月31日までの登記)、建物2%(国税庁) | 22.5万円 + 40万円 = 62.5万円 |
| 不動産取得税 | 評価額 × 3%。宅地は評価額の2分の1が課税標準(どちらも2027年3月31日までの取得。熊本県) | 22.5万円 + 60万円 = 82.5万円 |
| 印紙税 | 契約金額5,000万円超1億円以下の売買契約書は3万円(2027年3月31日までに作成) | 3万円 |
| 司法書士の報酬など | 依頼先で変わる | 仮に30万円 |
| 合計 | 382.6万円 |
価格に諸費用を足すと6,382.6万円。298万円をこれで割ると4.67%です。
ここで気をつけたい点が2つあります。
一つ目は、登録免許税と不動産取得税は、売買の価格ではなく評価額にかかることです。評価額は売主に届く固定資産税の課税明細書に載っているので、仲介会社を通して見せてもらうよう頼めます。
二つ目は、中古の住宅とその敷地で不動産取得税が軽くなる控除は、個人が自分で住む場合に限られることです(熊本県の軽減措置の要件)。貸すために中古のアパートを買う場合、計算例のように評価額にそのまま3%を掛けて見込んでおくのが手堅い見方です。納税通知は登記から5か月〜1年ほどで届きます。
取得時の税の細かい条件は、外国人が日本で不動産を買うときの流れと、かかる税金 へ。
築年数と修繕:耐用年数は建物の寿命ではない

広告に築年数が書いてあると、「あと何年使えるか」を考えたくなります。よく引き合いに出される法定耐用年数は、税金の計算(減価償却)に使う年数で、建物が使える年数ではありません。住宅用の建物は、次のように決まっています(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)。
| 構造 | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
| 鉄骨造(骨格材の厚さ4mm超) | 34年 |
| 鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 |
| 鉄骨造(3mm以下) | 19年 |
| 木造 | 22年 |
中古で買った建物は、残りの年数で償却する「簡便法」が使えます(買った後の大きな改修費が取得価額の半分を超える場合などを除く)。木造で築15年なら(22−15)+15×20%=10年。築22年を過ぎた木造なら22×20%=4.4年で、端数を切り捨てて4年です(同省令第3条、国税庁)。自分の場合にどう当てはまるか、償却を申告にどう入れるかは、税理士に聞くところです。
修繕は、周期で見ます。 国土交通省の賃貸住宅向けのガイドブックには、傾斜屋根やサイディングの外壁など、低層のアパートに多い部位の修繕周期の事例が載っています。
| 部位 | 工事 | 周期の事例 |
|---|---|---|
| 屋根(傾斜屋根)・外壁 | 塗装 | 11〜15年目 |
| 陸屋根・ルーフバルコニー | 防水処理 | 21〜25年目 |
| ベランダ・階段・廊下 | 塗装/防水処理 | 5〜10年目/11〜15年目 |
| 給湯・エアコン・浴室などの室内設備 | 修理/交換 | 5〜10年目/11〜15年目 |
(日本賃貸住宅管理協会のマニュアルを元にした事例。この表に金額は載っていません。ガイドブックには個別の建物の修繕計画の例が金額入りで載っていますが、建物ごとの事例で、目安の相場ではありません)
同じガイドブックは、国の調査で、計画的に修繕しているオーナーは約4割、計画修繕をしていないオーナーは約2割だったと紹介しています。築15年前後の物件なら、外壁や屋根の塗装がいつ行われたかで、買ったあとすぐの出費が大きく変わります。売主に修繕の記録を出してもらい、周期の表と並べて見ると、次の工事がいつ来そうかの見当がつきます。
熊本で見るときに加えたい2つのこと

令和8年熊本地震のあとの建物と保険 2026年7月28日、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1の地震が起き、宇城市と氷川町で震度7を観測しました(気象庁)。国土交通省と建築研究所は、建物の被害の原因を分析する委員会の第1回を8月31日に開きました。原因についての結論は、まだ示されていません。
一棟アパートを見るときは、売主に今回の地震で受けた被害と、その補修の内容を書面で出してもらいます。建物の見方(建てた年、建物状況調査、ハザードマップ)は 熊本地震のあと家を買うときに見ること に詳しく書いています。
地震保険は、火災保険とセットで入り、保険金額は火災保険の30〜50%(建物は5,000万円まで)です(財務省)。対象は住まいに使う建物と家財で、事務所専用の建物などは入れません。保険料は建物の構造と所在地で決まり、財務省が公表している基本料率では、熊本県は保険金額1,000万円あたり年7,300円(主に鉄骨・コンクリート造)、11,200円(主に木造)(木造でも省令準耐火などは鉄骨・コンクリート造と同じ料率)です(2022年10月以降に始まる契約、割引前)。木造の一棟アパートなら、保険料の差も費用の欄に効いてきます。
半導体関連の話は、県の計画として読む 熊本県は、2021年11月にtsmcの熊本進出が決まったことを受け、関連企業の立地などの波及効果が期待されるとして、半導体産業の振興のビジョンを作っています。2025年3月の「くまもとサイエンスパーク推進ビジョン」では、JR豊肥本線や、県が検討している空港アクセス鉄道の沿線などで、住宅やサービスアパートメントが立地できる環境を整えるとし、拠点として菊陽町の原水駅・新駅周辺、合志市の御代志駅周辺、大津町が検討している肥後大津駅・空港アクセス鉄道中間駅周辺などを想定しています。
これは県の方針で、どの場所の家賃がいくらになるか、空室が減るかを示したものではありません。 広告に「半導体需要」と書いてあっても、自分で利回りを計算し直すときに入れるのは、レントロールにある今の家賃と、自分で置いた費用です。
まとめ

| 見るところ | 事実 | 読み方 |
|---|---|---|
| 広告の「利回り」 | 年間の予定賃料収入 ÷ 取得対価。費用を引く前の数字(表示規約の施行規則) | 注記の3つ(割合・保証しない・費用控除前)を先に読む |
| 想定と現況 | 条文は満室か現況かを書き分けていない | 想定なら、空き部屋の家賃をレントロールと比べる |
| 引く費用 | 空室・管理・修繕・税・保険・募集・共用部。賃貸用の空き家の割合は熊本県18.3%(2023年、統計の定義で) | 統計は募集中の空室率とは別。項目ごとに自分で置き、空室はレントロールで見る |
| 購入時の諸費用 | 仲介手数料の上限は告示、登録免許税・取得税は評価額にかかる | 実質利回りの分母に足す |
| 築年数 | 法定耐用年数は税の年数で、寿命ではない | 修繕の記録と周期の表を並べる |
| 熊本で | 地震の原因分析は途中。半導体関連は県の計画 | 被害と補修は書面で。計画は家賃の約束ではない |
計算例では、表面8.00%が、費用を引いて4.97%、諸費用を入れて4.67%になりました。数字は架空ですが、広告の数字から何を引けば手元の割合に近づくかの順番は、どの物件でも同じです。
※2026年10月26日時点の情報です。計算例の数字はすべて架空で、実在の物件や地区の相場ではありません。この記事は一般的な解説で、特定の物件をすすめるものではありません。税率・料率の最新は、国税庁・熊本県・熊本市・財務省の案内で。空き家の割合は総務省統計局の統計を加工して計算したものです。
次の一歩
- 一棟アパートを持っている人、検討している人の話を atlas TALK で聞く
- 熊本のマンションの値段を台湾の坪単価と同じ物差しで比べるなら「熊本のマンション価格と地価は台北の何分の1?」
- 熊本県内で公開されている売買物件の情報を atlas でまとめて見る(各物件の取扱会社が掲載している情報です)
出典
- 不動産公正取引協議会連合会「公正競争規約の紹介」(不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則。2022年9月1日施行の改正後)
- 不動産公正取引協議会連合会「不動産の公正競争規約集」(2025年8月26日施行の景品規約を反映。表示規約施行規則 第9条第46号〔利回りの表示〕、第10条〔節税効果等の表示基準。第2項・第3項が賃料収入の確実性等〕)
- e-Gov法令検索 宅地建物取引業法(第32条 誇大広告等の禁止)
- 国土交通省 報酬額告示(令和6年国土交通省告示第949号による改正後の本文)
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表(令和8年4月1日現在)
- 国税庁 No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置
- 熊本県 不動産取得税(2025年11月27日更新)
- 熊本県 住宅及び住宅用土地を取得したときの軽減措置
- 熊本市「市税のしおり」令和7年度版(固定資産税・都市計画税、住宅用地の特例、新築住宅の減額)
- 熊本市 新築家屋に対する減額措置(2026年7月3日更新)
- e-Gov法令検索 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一、第3条 中古資産の耐用年数)
- 国税庁 No.5404 中古資産の耐用年数(令和8年4月1日現在)
- 国土交通省 住宅局「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」
- e-Stat 令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(第37-3表 賃貸用の空き家数、第8-4表 所有の関係別専用住宅数)
- e-Stat 平成30年住宅・土地統計調査(住宅及び世帯に関する基本集計 第38-3表 賃貸用の空き家数、第9-4表 専用住宅数)
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 用語の解説
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査(参考分析)共同住宅の空き家についての分析
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 推計方法(推定値の標準誤差率)
- 財務省「地震保険制度の概要」
- 財務省「地震保険の基本料率(令和4年10月1日以降保険始期の地震保険契約)」
- 気象庁 強震観測データ「2026/7/28 熊本県熊本地方の地震」
- 国土交通省 報道発表「令和8年熊本地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会(第1回)を開催します」(2026年8月18日)
- 熊本県「くまもとサイエンスパーク推進ビジョン」(令和7年3月)
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