この記事でわかること
- 経営・管理ビザは何が変わった? 資本金・社員・日本語の3つが重くなった
- 会社を買うと、何を引き継げる?
- 会社を買うと、事業の広げ方が変わる3つの理由
日本で会社をつくって、自分も日本に住んで経営する。台湾の経営者がよく描くこの計画は、2025年10月16日から一気にハードルが上がりました。経営・管理ビザ(在留資格「経営・管理」)の基準が変わり、資本金は500万円から3,000万円へ。常勤の社員を1人以上雇うことも条件になりました。
いっぽう日本では、後継者のいない会社が約半数あります。許認可も社員も取引先もそろった会社が、次の経営者を探しているのです。ゼロから起業するか、すでに動いている会社を買うか。どちらが合うかは、日本でどんな事業をどこまで広げたいかで決まります。
経営・管理ビザは何が変わった? 資本金・社員・日本語の3つが重くなった

2025年10月16日から、経営・管理ビザの基準は次のようになりました(2026年11月時点)。
| 項目 | 新しい基準 | 改正前 |
|---|---|---|
| 事業の規模 | 資本金(または出資の総額)3,000万円以上 | 500万円以上、または常勤職員2人以上 |
| 常勤職員 | 1人以上を雇う。数えるのは日本人・特別永住者・永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者だけで、就労ビザで働く外国人は数えない | 必須ではない |
| 日本語 | 申請者か常勤職員のどちらかが、日本語能力試験N2以上の合格など、B2相当以上の日本語力を持つ | なし |
| 経歴 | 経営・管理の経験3年以上、または関連分野の博士・修士・専門職の学位(海外の学位も可) | 管理者は経験3年以上(経営者は定めなし) |
| 事業計画 | 中小企業診断士・公認会計士・税理士の確認が必要 | 必須ではない |
日本語の条件は「申請者本人」だけではありません。日本語ができる社員がいれば満たせます。こちらの「常勤職員」には、就労ビザで働く外国人の社員も含まれます。
すでにこのビザを持っている人が2028年10月16日までに更新を申請する場合は、新しい基準に届かないことだけで不許可にはなりません。ただし経営の状況や、基準を満たす見込みは見られます。
数字にも影響が出ています。出入国在留管理庁の統計では、2026年上半期にこのビザで新しく日本に入った人は635人で、前の年の同じ時期より80.9%減りました。
会社を買うと、何を引き継げる?

すでに動いている会社を買うと、ゼロからの起業では時間がかかるものを、まとめて引き継げます。株式を買う形(株式譲渡)なら、会社そのものはそのまま続き、変わるのは持ち主(株主)です。
| ゼロから起業 | 動いている会社を買う(株式譲渡) |
|---|---|
| 許認可を一から申請する | 会社が持つ許認可は会社に残る。役員が変わったときの届出は要り、許認可の条件になっている役員や有資格者が辞めると要件を満たさなくなることがある |
| 社員を一から採用する | 雇用契約は会社とのものなので、社員の契約はそのまま続く |
| 取引先・仕入れ先を一から開拓する | 契約の相手は同じ会社。ただし「経営者が変わったら見直す」という条項がある契約もある |
| 社歴0年からスタート | 会社の歴史は続く。公共工事の審査(経営事項審査)では、建設業の許可を初めて受けてからの年数が点数になる |
| 日本語ができる人を探す | 日本人の社員がいれば、ビザの常勤職員・日本語の条件を満たせる可能性がある |
特に効くのは許認可です。建設業・旅館業・運送業・酒類の販売などは、取るまでに要件の準備や審査の時間がかかります。会社ごと引き継げば、許認可を取り直さずに事業を続けられます。そのためにも、許認可の条件になっている人(建設業の経営業務の管理責任者など)が買ったあとも残るかは、買う前に見ておきたいところです。
会社を買うと、事業の広げ方が変わる3つの理由

ビザのためだけに会社を買う、というのは順番が逆です。会社を買ういちばんの価値は、日本での事業を「すでに回っている形」から広げられることにあります。
1. 台湾の本業の、日本での受け皿になる 台湾で作っている商品やサービスを、買った会社の販路で日本のお客さんに届けられます。たとえば台湾の部品メーカーが日本の同業の工場を買えば、その会社の取引先に提案する入口ができます。物流や在庫を置く場所も、会社が持っていれば使えます。
2. 日本の取引先と人材が、最初から手元にある 日本の取引は、長く付き合いのある相手を大事にする文化です。初めての会社と取引を始めるまでには、時間がかかることが少なくありません。買った会社の取引先・仕入れ先・協力会社は、すでにその会社を知っています。現場を知る社員がいれば、日本の商習慣に合わせた営業も任せられます。
3. 日本の会社だからこそ取れる仕事がある 公共工事のように、許可と実績(経営事項審査の点数)がそろって初めて参加できる仕事があります。経営事項審査では、建設業の許可を初めて受けてからの年数(営業年数)も点数になり、長いほど有利です。ゼロからでは何年もかかる部分を、時間ごと引き継げます。
いいことばかり? 会社を買う道の弱みも5つ

| 弱み | どういうことか | 備え |
|---|---|---|
| 最初に大きなお金がいる | 会社の値段には、これまでの稼ぐ力や取引先の価値も入る。ゼロからの起業より、最初の支払いは大きくなりやすい | 「その会社がなかったら、同じ状態になるまで何年・いくらかかるか」と比べて値段を考える |
| 見えない負債がついてくる | 株式を買うと、会社の過去もまるごと引き継ぐ。未払いの残業代、保証している借金、税金の申告もれは、帳簿だけでは見えないことがある | 買う前の調査(デューデリジェンス)を弁護士・会計士に頼む |
| 社員や取引先が離れることがある | 「社長が変わるなら」と辞める社員や、取引を見直す相手もいる。取引の契約に「経営者が変わったら見直す」という条項が入っていることもある | 前の社長にしばらく残ってもらい、あいさつ回りを一緒にする |
| 自分のやり方にすぐは変えられない | 設備・社風・仕事の進め方は、長年の積み重ね。台湾のスピード感でまとめて変えると、現場が止まることがある | 最初の1年は「見る・聞く」を優先し、変えるところを絞る |
| ビザの条件が自動でそろうわけではない | 入管の資本金の基準は「会社の資本金の額」で見る。買った会社の資本金が3,000万円に届かなければ、増資など別の手当てが要る | 買収の計画の段階から、入管手続きの専門家に相談する |
| こんな人は「買う」が向く | こんな人は「ゼロから起業」が向く |
|---|---|
| 許認可が要る業種(建設・宿泊・運送・酒類など)で広げたい | 許認可がいらず、仕入れと販売だけで回る |
| 日本の取引先・人材を早く手に入れたい | まず小さく試して、手応えを見たい |
| 台湾の本業に近い日本の会社がある | 自分のやり方で一から組み立てたい |
| 最初にまとまった資金を用意できる | 最初の支払いはおさえたい |
日本には、次の経営者を探している会社が多い

帝国データバンクの調査では、2025年の後継者不在率は50.1%でした。7年続けて下がってはいますが、それでも約半数の会社に後継ぎが決まっていません。
国の窓口(事業承継・引継ぎ支援センター)で、親族以外の第三者に会社を引き継いだ成約(M&A)は、2025年度に2,265件。過去最多です。親族ではなく第三者に会社を渡すことは、日本でも当たり前の選択になってきました。
台湾から日本への投資も動いています。日本の統計では、台湾からの対日直接投資は2025年に22.78億ドルで、前の年より34.3%増えました(JETRO)。
台湾の会社は、日本の会社をどう買ってきた?

大きな買収は、会社の発表で中身を追えます。
| 年 | 買い手(台湾) | 日本の会社 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 2012〜13年 | 環球晶圓(中美矽晶グループ) | コバレントシリコン(現 グローバルウェーハズ・ジャパン) | シリコンウェーハの事業を取得 |
| 2016年 | 鴻海精密工業ほか | シャープ | 約3,888億円を出資し、普通株の66%を持つ |
| 2019年 | 研華(Advantech) | オムロン直方(福岡県直方市) | 株式の80%を取得 |
| 2025年 | 閎暉實業 | FDK | 公開買付けで45%を取得。上場は維持 |
| 2025年 | 国巨(YAGEO) | 芝浦電子 | 公開買付けで87.34%を取得 |
| 2025年 | 群創光電の子会社 CarUX | パイオニア | 全株式を取得(2025年12月完了) |
どれも、台湾の本業と近い日本の会社を買い、技術・工場・顧客を手に入れる形です。研華が買ったオムロン直方は、福岡県直方市で産業用の電子機器の開発・製造を請け負っていた会社です。上場していない中小の会社の買収は公表されないことが多いものの、考え方は同じです。
手続きで押さえておきたい3つのこと

1. 株式を買うか、事業だけを買うかで、許認可の扱いが変わる 株式譲渡なら許認可は会社に残ります(役員が変わったときの届出などは必要です)。事業だけを買う形(事業譲渡)では、業種ごとに扱いが違います。
| 業種 | 事業譲渡・合併のとき |
|---|---|
| 建設業 | 事前に認可を受ければ引き継げる(2020年10月から。許可を受けた建設業の全部を譲る場合) |
| 旅館業 | 事前に承認を受ければ引き継げる(事業譲渡は2023年12月から。合併・分割は以前から) |
| 宅地建物取引業 | 引き継ぐ仕組みはない。合併で消える会社の免許はなくなる |
| 酒類の販売 | 合併・分割は、新しい免許の申請と古い免許の取消しを同時に出す。事業譲渡は新規の申請 |
| 一般貨物自動車運送 | 譲渡・合併・分割には認可が必要 |
2. ビザの資本金は「会社の資本金の額」で見られる 入管は、法人の場合「払込済みの資本金の額」で判断し、ほかの支出とは合算しないとしています。既存の株主から株式を買い取る代金は売り主に支払われるもので、会社の資本金は増えません。増資で新しい株式を引き受ける場合は、払い込んだお金のうち資本金に入れた額だけ増えます(資本準備金に回した分は数えません)。買う会社の資本金が3,000万円に届かない場合にどうするかは、行政書士など入管手続きの専門家と、買収の計画の段階から一緒に組み立てます。
3. 業種によっては、買う前に国への届出が要る 外国の会社、日本に住んでいない人、またはそれらが50%以上を出資する日本の会社が日本の会社の株式を買うとき、農林水産業・旅客運送・警備業・ソフトウェアなど国が指定した業種では、上場していない会社なら1株からでも事前の届出が必要です(外為法)。届出が受理されてから原則30日間は、株式を取得できません。指定の業種でなくても、10%以上を持つと事後の報告が要ります。2026年6月には改正外為法が公布され、海外の会社を通じた間接的な取得なども届出の対象になります(施行日は政令で決まります)。
で、何から始める? 日本の会社を買うまでの5ステップ

| ステップ | やること | 一緒に動く人 |
|---|---|---|
| 1. 広げたい事業を決める | 台湾の本業の何を、日本のどこで、どこまで広げたいか。業種と地域、使える予算を書き出す | 自社 |
| 2. 買い手としての条件を決める | 欲しいのは許認可か、工場か、取引先か、人か。売上の規模と、出せる金額の上限 | 自社・税理士 |
| 3. 会社を探す | 各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センター(国の相談窓口。相談は原則無料)、M&Aの仲介会社やマッチングサイト、取引のある銀行 | 支援センター・仲介会社・金融機関 |
| 4. 調べて、条件を決める | 買う前の調査(デューデリジェンス)、値段と引き継ぎの条件の交渉、契約書 | 交渉は自社。調査は弁護士・公認会計士・税理士、契約書は弁護士 |
| 5. 買ったあとの手続き | 許認可の届出、外為法の届出、ビザの申請(事業計画は中小企業診断士・公認会計士・税理士の確認が要る)、取引先へのあいさつ | 行政書士・税理士など・前の経営者 |
いちばん大事なのは、ステップ1と2です。ここが決まっていないと、案件を見ても「良さそう」で止まってしまいます。逆に「熊本で、許可を持った建設会社を、社員ごと」のように言葉にできていれば、相談先の支援センターや仲介会社とも、具体的な会社の話から始められます。
日本での事業を、どこから始める?

ゼロから会社をつくる道は、資本金3,000万円・常勤の社員・日本語・事業計画の確認と、最初にそろえるものが増えました。すでに動いている会社を買う道なら、許認可・社員・取引先・会社の歴史を受け継いで、日本での事業を「回っている状態」から広げられます。最初の支払いや、買ったあとの舵取りという弱みもあります。どちらの道を選ぶにしても、出発点は「日本で何の事業を、どこまで広げたいか」です。
- 熊本・九州で工場や拠点を構えるなら、補助制度を「熊本で工場・拠点を構えるときの補助制度の探し方」で見ておく
- 台湾から社員を呼ぶなど、経営・管理以外の在留資格も考えるなら「外国人が熊本で働くとき、まず確かめる在留資格と仕事の探し方」へ
※2026年11月時点の情報です。ビザの審査と外為法の届出は、個別の事情で判断されます。
次に読む


出典と写真(26件)
出典
- 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」(Q&A、2026年6月26日更新)
- 出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について」(2025年10月10日公表・10月30日更新)
- 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』」
- 出入国在留管理庁「令和8年上半期における外国人入国者数及び日本人出国者数等について」
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日)
- 中小機構 ニュースリリース「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績」(2026年5月29日)
- J-Net21「事業承継・引継ぎ支援センター」
- 国土交通省「建設業の事業承継に関する改正(建設業法第17条の2)」
- 関東地方整備局「建設業の譲渡・合併・分割・相続の認可(令和2年10月1日から)」
- 厚生労働省「旅館業法等改正法について」
- 大阪府「宅地建物取引業 よくある問い合わせ(合併と免許)」
- 国税庁 酒税法基本通達 第9条関係(法人成り等の取扱い)
- 国土交通省「一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けの認可」
- 国土交通省「一般貨物自動車運送事業の合併又は分割の認可」
- 宮城県 経営事項審査の手引き(令和8年7月改定版、営業年数の評価)
- 財務省「外国投資家による投資について」(2024年9月)
- 財務省「改正外為法の公布について」(2026年6月5日)
- シャープ・鴻海精密工業ほか 共同リリース(2016年3月30日)
- オムロン「オムロン直方の株式譲渡について」(2018年10月26日)
- グローバルウェーハズ・ジャパン 沿革
- 富士通「FDK株式の譲渡について」(2025年2月12日)
- FDK 公開買付けの結果について(2025年3月14日)
- 芝浦電子・YAGEO 公開買付けの結果(2025年10月21日)
- パイオニア「株主変更に関するお知らせ」(2025年6月26日)
- パイオニア「株主変更を完了」(2025年12月1日)
- JETRO 世界貿易投資報告 2026年版(対日直接投資)










